日本最大級のアカペラ大会JAMの2015年度優勝グループたむらまろが,10月23日に台湾で開催された世界大会「台湾国際重唱芸術節」に挑戦したが,その結果は“残念なもの”であった.
その理由についてたむらまろとは何の関係もない(というていの)私が分析してみる.
ここでの発言はたむらまろの公式発言という事ではなく,あくまで私個人の発言であるという事をご理解いただければと思う.


目次

0.    残念な結果

1.    表現としてのアカペラ

2.    音作りの違い

3.    ジャンル分けの違い

4.    1~3が単なる言い訳にならない理由

5.    結論

 

0.残念な結果


まず,たむらまろが述べている「残念な結果」という表現についてだが,つまるところ「かなり評価されなかった」という様に認識していただければよいかと思う.

そしてその敗北感はメンバー自身も強く感じており,単に評価基準にそぐわなかったためだけの敗北ではない,という事なのである.

哀しいかな,爪跡すら残せなかったな.という感触であったのだ.

 

それはなぜか?

 

他のグループの演奏を観て,そして結果を受けて,日本に帰り,考えた事をここに述べる.

 


1.表現としてのアカペラ

 

「世界のアカペラは自分達が知っているものと違った」

 

(「世界の」といっても,我々が体感したのは台湾という国で行われた大会に限られるのでその局所的なものではあるが,あえて大袈裟に「世界の」という言葉を使わせていただこうと思う)

世界のアカペラスタイルについて語るにあたってまず特筆すべきは,「視覚的な効果にかなり拘った,ダンス的な要素を多く含むものであった」という事である.

Sing-Offやピッチパーフェクト等でみられるような大人数でのダンス的なアカペラスタイルがアメリカでは主流である事は知っていたが,台湾でも(アジアでも?)既にそういった形が主流である事は知らなかった.(台湾の大会出場グループは6~8人の編成なのでアメリカの標準的なそれよりは小規模である)

 

日本のアカペラでもダンス的な要素を組み込んだものは多少みられるようになってきたが,世界の動きと比べたら動いていないも同然くらいのものであると言える.そのくらい世界は動く.

 

この差を生み出している大きな点として,“無線マイクの普及”があると考えられる.

既に台湾では無線マイクが当たり前で,それを前提としたステージングが作られているのである.

日本でも大きな大会や,ホールでのライブ等では無線マイクが使われているが,基本のライブは有線マイクであり,無線マイクでのパフォーマンスも,多くの場合有線マイクの延長線上の表現でしかない.

 

そしてたむらまろであるが,これはご存知の通り基本的に動かない.

(失礼な物言いで申し訳ないが)たむらまろのパフォーマンスは,JAMレベルの動くパフォーマンスに印象強さで負けないスタイルのようだが,世界の本気で動くパフォーマンスには歯が立たなかった.

 

また,マイクの使い方,スキャットの種類,ラストにかけての盛り上げなども日本より多様でより突き詰められている印象があった.

ざっくり言って「音楽というより表現」を突き詰めたアカペラと呼べると感じた.

 

「アカペラって芸術表現だったんだ」

 

これはメンバーの言葉だが,とても的を射た感想であると思う.

表現としてのアカペラで世界に負けたと感じた.

 

 
 2.    音作りの違い

 

「割とブーミーだった」

 

ダンスを基本としたパフォーマンスでは,パーカッションは必然的にHBB寄りとなり,ベースもブイブイ鳴らす必要があるためか,割とブーミーな音作りが基本だった.

そのパワーが凄かった.

 

たむらまろのハーモニーのスタイルは,ベースを他のパートと別物にすることを良しとせず,コーラス的な音作りとするのが理想である.故にリハでは,ベースがズドンズドン鳴っていたのを抑えるためにLowを減らしてもらった.

結果としてこの判断が演奏の迫力を大きく低減させ,更なる低評価を導いたと思う.しかし,たむらまろの音のスタイルとしては致し方なかったとも思う.

 

結果として,たむらまろは日本では与える事が出来ていたハーモニーのインパクトすら全く残せずに演奏を終えてしまった,ようだ.

 

楽器バンドの中で,本当に素の声だけで演奏した.という感じだ.

 





3.ジャンル分けの違い

 

「たむらまろはコンテンポラリーアカペラとしては認められなかった」

 

日本のアカペラのジャンル分けは基本的に存在しない.但し,クラシカルな発声を基本とするノンマイクのアカペラ,(合唱に対して重唱と呼ばれるもの)ははっきりと別ジャンルとされている.

しかし,世界のアカペラのジャンル分けでは,たむらまろはコンテンポラリーアカペラではなくて,クラシックに属するという風に韓国から来た審査員の方に言われた.

クラシックの大会であれば高評価だが,コンテンポラリーアカペラの大会としては極めて低い点数をつけざるを得ない.と.(その方には大会後に韓国のクラシックの大会に招待された)

図に示すとこんな感じだろうか.
アカペラジャンル


 

これは世界のジャンル分けからすれば当然な判断だったのだろうが,私にとっては衝撃的な結果であった.

私の日本におけるアカペラのモチベーションの大きな部分は,「日本のアカペラを変えたい,既成概念を取り払いたい,新たな価値を生み出したい」であったので,たむらまろが日本一になった事で,それを一つの形で達成できたと感じた.

一見コンテンポラリーではないが,“実は今の日本のアカペラに受け入れられる”音楽を模索する事で辿り着いたもの.

一見門前払い感を出しつつも,“実は極めてポピュラーな方向に媚びて”生み出されたもの.
それがたむらまろ.

だからこそ,今回,逆に門前払いされて,大変悔しいし,無力さを感じた.



4.”1~3”が単なる言い訳にならない理由

 

「Gili」

 

先の大会でたむらまろはユースの部に出場したのだが,オープンの部で優勝したGiliというグループがある.このグループはずば抜けて,文句なしにレベルの高い音楽を奏でるグループだった.ステージングに派手さは無くて,シンプルめ,しかし圧倒的な上手さで十分に評価され,結果を得た.

たむらまろも,このGili並の音楽をできれば,1~3で述べた事など関係なく,ぶち抜いて評価を得られたのだと考えられるため,1~3は,単なる言い訳にはならず,分析にしかならない.

このGiliは先に行われたVocalAsiaの大会にも出場し優勝しているらしい.

因みにそのVocalAsiaでは,日本からThe Groovies(大変残念なことに既に解散してしまっている)も出場しており,3位入賞を果たしている.

はっきり言って,世界というフィールドにおいてたむらまろはThe Grooviesに負けたと言って過言ではないだろう(尚,The GrooviesはJAMに応募したことが多分ないので国内で競った事はない).

 

余談を挟んでしまったが,つまるところ,たむらまろが残念な結果に終わった理由は1~3のように分析されはするが,Gili並の音楽をできさえすれば,それらのハードルは超えられた.だろうという事である.

 

Giliの動画

https://youtu.be/VZ-nr-7114k

 


5.結論

 

つまり,たむらまろは表現としてのアカペラにおいて世界に適わず,上手い音作りをできず,既に世界には存在したジャンルの枠を超えられなかった上にGili並の音楽は演奏できなかったために,残念な結果に終わったのである.

 

(ささやかなフォロー)

 

以上までの文章をしっかりと読んでくださった方ならば分かって頂けたと思うが,日本一のアカペラが負けたからといって日本のアカペラのレベルが低いとか,遅れているという事では絶対にない.

はっきりしたのは,たむらまろというのは

ガラパゴス化している日本のアカペラの中だからこそ評価を得られたグループである

という事である.

 



おまけ1.アカスピ


今の日本のアカペラを語るにあたってかかせないのがAcappella Spirits!である.日本において表現としてのアカペラの価値を押し上げている要因の最大のものである.

また,アカスピEXとしてジャンル毎の大会も催し,リードヴォーカル賞,アレンジ賞,ボイパ賞等も設けている点においても,最も世界のアカペラ大会の形に近いと言える.エフェクターの使用を可としているのも大きなポイントだ.

従来の日本のアカペラスタイルのみではなく,声を用いた表現そのものを評価しようという姿勢が感じられる.




おまけ2.ハモネプの系譜 

 

「テレビの影響ってすごいんですね」

 

これもメンバーの言葉である.

普段は意識していないが,如何に日本人アカペラーがハモネプの系譜を生きているのかを,世界のアカペラによって実感させられた.標準的なハモネプのスタイル(リード+コーラス+ベース+パーカス)とはほど遠いたむらまろであっても,根本にはハモネプが流れていた.

私自身,中高生の頃はハモネプが大好きで,日々研究していたし,憧れてもいたため,系譜どころか血となり肉となっているため,大学生になり,単なるハモネプ的なアカペラに辟易し,変わったものを積極的に多くやっても根本にはいつもハモネプが流れているのである.

日本においては,如何にハモネプ側じゃなくとも,世界のくくりでは日本のアカペラの殆どはハモネプ側だ.

 

近年のハモネプは多く芸能人大会たるものが開かれていた.

これは,昔からあったハモネプよりも視覚的効果を重視し,エンターテイメント性が追求されている.そういう意味で,日本のアカペラのガラパゴス化からの脱却を訴える番組となっていたのかもしれない.

 

逆に,世界のアカペラはSing-Offの影響を強く受けていると言えるだろう.

中国版のSing-Offも存在し,恐らく日本以外のアジアではその番組でのアカペラスタイル,表現技法がポピュラーなものとなっているのであろう.(例えば二胡?という弦楽器の声真似が中国版Sing-Offで観る事ができる上で,先の大会でも観られた等)




おまけ3.たむらまろ

 

たむらまろは,日本のアカペラ実地審査において負けなし,実に今回初めて,残念な結果を得た.

 

この結果を受けて今後たむらまろはどうなっていくのか?

 

今はまだ未来が見えていないが,可能な限りの活動の中で,きっと新たなたむらまろを目指して邁進して参るので,どうか応援のほどよろしくお願いしたい次第である.

 

ご意見,ご質問などあれば,なんなりと本BlogへのコメントやTwitterへのリプライ等を送って頂ければと思う.

 

 

 

なんていう風にたむらまろのリーダーは思っているのではないだろうか. 

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