【前置き】
思い返せばこのBlog,アカペラに(音楽性も思想も)どっぷり浸かっている人向けの事を書いてきた.
中学生の頃からアカペラ大好きな私が,今新たに得た結論について書いているので当たり前なのだが,このままではアカペラ初心者には読んでもらえなさそうだ.
で,新たにアカペラ初心者向けの記事も書いてみたいと思った.

最近,「アカペラのレベルを上げるために何ができるか?」といった事を後輩に相談され,頭悩ませているという背景がある.
そして,その事を以下のお三方にもお話させて頂いた際に,新たに得られた知見も踏まえて今回とりあえず一つ書く事にした.
A-realize代表の杉村さん(Twitterリンク)

LINESのOBのおたまさん(Twitterリンク)

鳴声刺心のOBのけんごさん(Twitterリンク)

お三方の教えも含めて書くが,内容全てがお三方の意見という訳ではないので誤解無き様にお願いしたい.



【問題】
ステージにいろはすを持ち込んではいけない理由を述べよ(100字以内)

何のこっちゃか全く分からない.
日本コカ・コーラに訴えられそうな問題だが,別にいろはす批判をしたい訳ではない.
とりあえず,回答例を見ていこう.

回答例1.いろはすがステージドリンクであるという情報は必要ないから.
40点

とても良い着眼点.
そう,そういう話がしたい.
要は,いろはす自体が駄目なのではなく,
「いろはすを,いろはすと分かる状態でステージに持ち込む」
「つまりラベルを張ったまま飲み物を持ち込む事が何故駄目なのか?」
という問題なのだ.正しくは.
(プロミュージシャンがラベルを剥がしている理由として,宣伝になってしまうとかスポンサー関係の問題もあるそうだが,今日のお話はそれとは別)
では,その情報は誰にとって?必要なく,また,何故必要ないものは無い方が良いのか?

回答例2.いろはすがステージドリンクであるという情報は観客にとって必要なく,演奏に集中できないから.
60点

そう,観客にとって必要無い情報なのだ.
必要ない情報がある事によって,例えば演奏を聴くにあたって邪魔になる可能性があるからラベルを剥がすべきなのだ.
しかし,この”演奏”という表現だと,範囲が狭過ぎる.
更に突き詰めると,結局何を実現するために??

回答例3.いろはすがステージドリンクであるという情報は観客にとって必要なく,観客に伝えたい表現において邪魔になる可能性があるから.
80点

ここまでくると,この問題には幾つかの前提条件が抜けている事がハッキリと分かる.



①観客に表現を伝えたい

そう,観客に表現を伝えるという前提が根幹にあるのだ.
この事を諸君に伝える場合,言い方として
「観客に表現を伝える為に必要な事をして,不必要な事はしないようにしなさい」
だけで全てを網羅する.
しかし
「必要な事って?不必要な事って?」
となる.
逆に
「いろはすは持ち込まないようにしなさい」
のみを伝えると
「何でか分かんないけどいろはすはやめてクリスタルガイザーにしておこう」
とかなってしまう訳だ.
そこでこんな風に順を追って解説している.

あともう一つの前提
・問題の対象は,いろはすがステージドリンクである事によって表現を伝える助けにはならないバンドである

もし,いろはすの魅力を伝える事を目的としてバンドの場合この問題は成り立たない.
あとは,いろはすというものの青春感?ブランドイメージ?に沿ったバンドや,MCでいろはすをステージドリンクにしている事を利用するのであれば,いろはすを持ち込んでも良いのかもしれない.
「日本の和の心を伝えたくて歌っています」というMCをしてからクリスタルガイザーをグビグビ飲んでいたらちょっと面白いかもしれない)

観客の脳に「ステージドリンクはいろはすなんだ」という無駄な情報が割かれる事が,本来伝えたい表現の邪魔になる可能性があるからダメなのだ.
仮に「ステージドリンクはいろはすである」事が誰にとっても常識で,あえてラベルを剥がす事の方が表現の邪魔になる世界になっていった場合も,この問題は成り立たない.


あと,いろはすのペットボトルは柔らかくてうるさいのでステージドリンクとして持ち込むには適さないという話をネットで見かけ,非常に納得したので,その点も加えれば100点だ.


【結局何が言いたいか】
当然,いろはすがどうこう言いたいのではなく,
「観客に表現を伝える為に必要な事をして,不必要な事はしないようにしなさい」
だ.
この至極当たり前の事を
視点として獲得
する事を求めている.
「これは必要かな,不必要かな」と検討していく事が必要なのだ.
こんな偉そうな事を言っている私自身も,必要な事と不必要な事を見分ける力で不足しているジャンル(衣装などのビジュアル的な面や外国語の発音等々)が沢山あるし,問題だらけなのだが,重要なのは検討していく姿勢だ.
分からない事はレベルが高い人に頼っても良いし,ググっても良い.

※そしてこの視点の圧倒的獲得率で近年の大学生アカペラを席巻しているのがLINESや鳴声刺心といったようなサークルだ.


【他にも】
以前にたむらまろで苗場アカペラ合宿というイベントで歌わせて頂いた際に,MCで「BOJを取るために必要な事」とかいう舐めたタイトルの講義をさせて頂いた.
その中の1つに
「MCで熱海旅行の話をしない」
というのを入れた,これもこの視点から導き出される結論の1つだ.
MCで熱海旅行の話をしてバンド旅行の話をされても興味ないし,大抵圧倒的に面白くないからこんな項目を掲げた(のだが,そんなにウケなかった汗).
(この視点が当たり前のたむらまろ内では理解されるしちょっと面白いのだが,その前提が共有されていない人々に対しては飛躍が過ぎたのかもしれない汗 そういう意味ではその検討力が我々に不足していた)

「ピッチパイプで初音を長々取らない(スムーズに取れる練習をしておく)」
「お辞儀をするならタイミング・角度をそろえる」
「バラードを歌い終わった瞬間に余韻を持たずに『ありがとうございました~!』と言わない」
「MCを事前に考えておく」
「MCで身内にしか伝わらない話をしない」
「鷹のマークがデカデカと書かれたTシャツを着て歌わない(自戒)」
全て,この視点から導かれる結論だ.
先輩や講評で言われた事がある人もいるだろう.
それぞれ直していく事は大事だが,根本的にこの視点の獲得が必要なのだ.
「突然変異的に生まれる」と杉村さんは仰っていたが,そのキッカケを与える事はできるかもしれない.
この記事がそのキッカケとなる事を願っている.

追記(2017/8/8/21:20):
この視点を獲得すれば自ずと導かれる結論
「そもそもステージでは水を飲まない方が良い」
という事を書いておかないと”この記事自体”が否定されてしまう事もあるようなので,わざわざ書いておく.

「でも水飲まなくてパフォーマンスが落ちるなら飲んだ方が良いだろ!Rajatonだって飲んでるぞ!」とか,「いや15分くらい我慢しろよ1曲ごとに飲むとかセイウチか!」とか,「そもそも発声が良くないから喉を容易に消耗するのだ!」とか,そういう議論がこの記事でしたい訳じゃないの?分かる?
誤解なきよう.


【余談】
結局アマチュアアカペラは自己満足・内輪の文化という側面が大きいし,どこまで表現のプロフェッショナルを追求するかによるので,全員に全員押し付ける事ができる話ではない.どうしてもいろはすのラベルと一緒にいたければそれでいいし,MCで熱海旅行について語りたければそれで構わないと思う.
プロフェッショナルを追求し過ぎるとそうじゃない人と衝突したり,失うものもあるかもしれない.
私かてそれなりをそれなりでやっているので,「お前は偉そうにする前にまず眉毛を剃れ」と言われたらぐうの音も出ない笑
このBlogかて,Twitterかて,私が今後歌うにあたって「ああいう事を考えている人」というのは必要ない情報だし,このBlog自体がブーメランとなっているという自己矛盾があるのだが,まぁアマチュアだしと考え,やりたい事をやっている訳だ.

結果として甘えた選択をするにしても,視点を持った上で判断するのであれば,より自覚的にアカペラに向き合えるのではないかと思うのである.

一切の誇張抜きに皆さんのより良きアカペラライフを願っている.

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